真理

京都大学山中伸弥教授がノーベル賞を受賞しました。もうそれは2006年にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作り出したことを発表した時点で「確定」していたことで驚かないことなのですが、6年前からずっと記事を追っていてる中で、彼の本当のすごさは怒濤のごとくiPS細胞についての技術や理論を発展させたことです。むしろ発表してからの方が加速しているような気がします。もちろん、それは大きなプロジェクトとして人力もお金も莫大に投入されてきたことが大きな要因でしょう。でもそれをトップとして方向性を示し、導くことは常人にはできないことです。
 
受賞のインタビューで彼は「真理に向けて一つ一つの扉(皮?)を開いていく」というような表現を使ったと思います。私たち教育の仕事についても同じように感じます。
 
教育でいうと山中さんのように革新的に真理に向けての扉を開いたのは、上越教育大学の西川純教授だと私は今でもそう思ってます。誰もが今までにやってきたことなのに誰もきちんと解析できていなかった。そこにメスを入れて「学びとは何か?」ということを体系づけたのは私にとっては革新的でしたし、もちろん教育界にとっても革新的です。
 
一方、山中さんはiPS細胞に4つの遺伝子を注入する中で、ある遺伝子の作用によってがん化する恐れがあること、また効率よくiPS細胞に変化する方法が課題でした。山中さんのすごいのは上記のようにそれらの課題をたった5〜6年で人への臨床段階に持ってきたことです。
 
しかし、残念ながら西川先生の提唱する『学び合い』はまだ暴れ馬状態です。何が授業を安定的に維持できるか、またどうすれば授業の質的な向上ができるかという課題が5〜6年経っても解決できないままです。それを解き明かすためには「緻密な」授業の解析と蓄積が必要なのですが、残念ながら、組織的にそうした取り組みはまだ行われていません。授業を見合うとか失敗を慰めるとか、授業の実践を紹介するというレベルのことしか話し合われていません。
 
私が離脱したのは真理にもう一歩踏み込むためです。そのために最前線の授業では実は1mmの「遊び」もありません。子どもの持つ限界を探りながら何が「学び続けるための要素なのか」を日々探り続けています。今ではかなりおもしろいことができるようになっています。そしてこの1年でその暴れ馬はかなり質・子どもの状況がともに安定的に維持できることが分かってきました。そのために必要なものは課題設定とかテクニックなどの延長にはありません。そうしたことに気がつけるかどうかが鍵を握ることでしょう。
 
真理が見えればすぐに実用化できるのかというとそうではありません。iPS細胞でも一般的(誰でもという意味で)に実用化されるには20年くらいかかると思います。山中さんは病気で苦しむ人に1日でも早く研究の成果を還元したいと言います。私たち教師は同じように一日でも早く学習で苦しむ子どもたちを救わなければならないと思います。こうして発信するということはそうした責任をも持っているということなのです。