「放射線になんか、まけないぞ!」とは

放射線になんか、まけないぞ!: イラストブック

放射線になんか、まけないぞ!: イラストブック

上記の本について群馬大の早川さんからの指摘があって、イラストレーターの柚木さんが対談されることになりました。私はいろいろと指摘を受けることはよいことだと思います。私が直接対峙すべきでしたが、お盆であることと会場が東京であることからustで観ていました。先日「何にもならない」という中味を書きましたが、改めて指摘された点についてここにメモします。なお、私も忙しいので早川さんと議論するつもりも、早川さんに絶大な信頼を寄せている方々とも対峙するつもりはございませんのであしからず。twitterでもフォローしていなので早川さんからフォローされている方は誰かリツィートしておいてください(笑)
 

1.俺の地図を使っていないからこの本はダメ
 
放射線になんか、まけないぞ!」で放射性物質の汚染地図を入れるときに、当時(7月)には福島県の汚染状況は見えていましたが全国的な汚染状況については早川さんの地図しかありませんでした。しかし、その地図がどのデーターを元にしているかも分かりませんでしたので、採用することを見送りました。より信頼性のある文科省のデーターをぎりぎりまで待ちました。
現在も文科省にアクセスすると分かりますが、汚染状況について早川さんの地図よりも遙かに詳細な地図が手に入ります。またデーターも状況に応じてきちんと補正されています。また1年経ってどのように放射性物質が移動しているか変位まで観測されています。(ちなみにこの変位はよく見ておいたがよいと思います)
元データは文科省の地図が最適です。そう言うと文科省信者とか、文科省のデータだからだまされているとか言う人がおりますが、地上で実測した限りほぼ正確でした。県内も遙かに詳細です。
さらに、現状の汚染状況はマクロとミクロの視点が必要です。そして県内で必要とされているのは、ミクロの汚染地図です。日本地図レベルの地図はもはや「いらない」のです。生活レベルの汚染状況で実際には早川地図のようにはなっていません。私たちが「今」必要なのはあのような地図ではありません。
(追記:私は都合があり参加できなかったのですが学区のじっちゃんたちが詳細マップを作成中です。これができあがってくると今何が起こっているのか見えてくると思います。もしさらに増販できたら柚木さんの絵が一部修正されることになるかも)
 
 
2.本が高い
 
1260円(税込み)という値段。本の厚さに対して値段が高い。確かに雑誌などからすればかなり高い設定です。私もこの仕事に携わって分かったことですが、そうした値段設定になるには理由があります。まずは「通常この手の本はペイできない」という現実です。原発事故以来多くの本が出版されていますが、その多くが「赤字」だそうです。ですから値段設定をする上でどれくらいのニーズがあるか分からない状況では、そこそこの値段になるのは当然なのです。教育書でもそうですが下手すると出版社が数十万から数百万の赤字を出してしまう。それが今の出版界の状況です。
また、文章だけの本ではないので、私・編集者・イラストレーター・デザイナー・監修等々多くの方々が携わっております。そうしたことを考えてとその経費は大きくなります。
さらに、出版社では希望される図書館や子育てグループなどに寄贈もされています。1冊買ってくださるごとに多くの子どもたちに目に触れるようにと出版社や我々チームの願いが込められています。もちろん私も郡山市内の全小中学校(90冊近く)寄付しています。本の値段というものはそういうものなのです。(追記:誤解されるといけませんね。寄贈分を上乗せしていると言うわけではありません。寄贈が決まったのも値段が決まってからです。出版社のご厚意です)
 
 

  
3.福島県中通りは人間の住むところではない
 
早川さんからすればそうらしいです。
始めに「私は医者じゃないから、医学的なことについては分からない」と言っているのに、自分の直感で線引きをしています。1μSv/hだそうです。
ちなみに「坂内さんも線引きしているはず」って指摘されましたがその通りです。彼はもっとひどい汚染地帯で線引きしているはずだと述べていいましたが全く違います。私の線引きは0.2μSv/hでこのあたりから子どもたちも親も気をつけるべきだと思っています。逆です。
(追記:なぜ0.2μ程度で気をつけるべきなのでしょう? それは農産物への移行係数はかなり大きな幅があり、実際に0.2μSv/hの場所でも数百Bqの農産物があります。でもそれを知っていれば怖くはありません。)
おそらく早川さんは自分が最も汚染状況について知っていると思っておられるようで、福島県に住む避難もしていない中通りの大人(子どもを持つ保護者)は馬鹿だとおもっているのでしょうね。「子どもが不憫でならない」とも言っておりました。我々はこの1年何もしてこなかったと思っているのでしょうか? 子ども持つ保護者は避難すべきかどうか、リスク判断し避難した方がよいという人は避難しましたし、大丈夫と思っている人は残って生活しています。
リスク判断の基準となる子どもの被曝量は郡山だと背景放射をさっ引いて年間で1mSv以下です。うちの子どもは年間で0.6mSvです。私はリスクは100万分の1以下と判断して生活しています。もちろん線量の高いところには近づかないし、体を動かせるように室内運動場での運動や水泳などもさせています。みんなそうしてリスク判断して生活しています。でも子ども自体にそれほどの悲惨さはございません。学校でもね。状況も人も知らない分析とはこんなものです。
(追記:あんなガラスバッチはデタラメだという人もおりますが、私が見る限りかなり正確ですその根拠としては数値が生活環境をよく反映しているからです)
  
4.この本が避難しようとしている人を引き留めている
対談の中でメインに語られていた話です。早川さんから「残留支援」なんていうひどい言葉で突っ込まれてた話ですね。確か中通りで子どもを避難させないのは「虐待」だともおっしゃられていたと思います。
 
この本の理念は明確で単純です。
 
「子どもに放射線教育をする」です。この1点のみの本です。
 
「子どもに放射線教育をするなんてなんてかわいそうなことを」なんていわれましたが、愚かだなと思います。今の現状がどのようなことなのか、それを子ども自身が学ばなくてどうするというのでしょうか? こんなものは福島県だけでなく、全国の子どもたちがもっともっともっと学ぶべきです。それは科学教育でもあり、社会教育でもあり、人権教育でもあります。教育現場は小学校から大学までもっと突っ込んで勉強するべきです。子どもは幼く、愚かだという勘違いが「大人の判断で」という身勝手な方向に導きます。
残留支援だのなんてこの本には1μmも関係ございません。イラストレーターの柚木さんが返答できないのは当たり前で、そんなこと考えてもいませんし、この本のおかげで福島県に留まろうと思ったなんていう人は聞いたこともございませんのですから。勝手な解釈を相手にぶつけてられても答えようがございませんものね。
どんな生活にもリスクはあります。そのリスクと家庭生活を天秤にかけて人は生活しています。そのリスクが十分に低いと考えているから住んでいるのであって、親が子どもの健康を第一に考えないはずがございません。その健康リスクを天秤にかけて生活しているのです。

 
 
この本の理念はとても高いものです。1年ほど前に制作に当たったのですが今読み返しても自分が制作に関わったとは思えないほどよくできています。膨大な時間をかけてチームとして意見を出し合ってきたことの成果です。
 
 
最後に
「まけないぞ!」がけしからん!とう人が大勢おります。物理的に放射線と戦う馬鹿はおりません。読めばそれが放射線と戦うことなのではなく、
そうした状況(それは、西日本の子どもも、避難した子どもも、そして福島の子どももも含めて)、こうした状況を乗り越えて未来への一歩を自分たちで踏み出そうぜという願いが込められています。賢い大人になろうぜという「まけないぞ!」です。