本当の専門性

「追悼の意を込めて」
 
出会いは7年ほど前です。当時の教頭先生が理科の自然観察のためにS夫妻をお呼びになりました。S夫妻は元中学校の理科教師です。当時日本野鳥の会支部長も勤めていらっしゃった方です。
 
僻地でしたので自然にあふれる環境でしたが、子どもたちが自然を知っているかというと、意外と知らないものです。夫妻は、子どもたちの自然への興味を最大に引き出しながら、一つ一つ子どもたちと自然の見方を教えていきます。
 
元中学校の教師と聞いていたので、私は正直、何にも期待していませんでした。おそらく一方的な説明と話で、子どもの興味など無関心だろうなと思っていました。
 
ところが、全く違っていました。その姿に私は衝撃を受けました。そして自分には一生かかってもこんな人間にはなれないだろうと理解しました。自分も年とともにいつかこんな教師になりたいと思いました。
 
学校が変わる度に、S夫妻をお招きして子どもたちがお世話になりました。子どもたちの姿を写真におさめると分かります。子どもの生き生きした表情が写ります。
 
夫妻は、本市の自然公園の管理にも携わってしました。子どもを遊ばせるために何度か公園に足を運び、夫妻の姿をお見かけしました。しばらくして、旦那さんの姿が見かけられなくなりました。そして昨日、子ども育てサークルの為に、管理棟のアトリエをお借りすることになり、奥さんに旦那さんのことを尋ねました。すると昨年亡くなられたとのことでした。とても切ない気持ちでいっぱいでした。
 
そんなS夫妻の姿を見れば、その子どもとの関わり方を見れば、高度な専門性が子どもを育てるのではなく、人との関わり方という基盤の上に専門性が乗っていることが分かります。
 
私はSさんのような人間には一生かかってもなれないことでしょう。あまりにもちっぽけな人間です。でも、そんな人間に少しでも近づいていきたいと思います。
 
なんか心にぽっかり穴が空いてしまった昨日と今日です。